ゲームのレベルデザインに学ぶ、家事・育児の動線を「遊び心」で快適にする方法
日々の生活において、特に家事や育児に追われる中で、「どうにも動きにくい」「もっとスムーズにできたら」と感じる瞬間は少なくないかもしれません。限られた時間や空間の中で、いかに効率よく、そして快適に作業を進めるかは、日々のストレス軽減に直結する重要な課題です。
この課題に対し、ゲームの世界からヒントを得る視点があります。それは「レベルデザイン」の考え方です。ゲームにおけるレベルデザインとは、プレイヤーがゲーム空間を快適かつ面白く探索し、目標を達成できるように、地形、オブジェクト、敵、アイテムなどを配置し、動線やギミックを設計するプロセスを指します。この設計思想を、私たちの日常生活、特に家事や育児の環境に応用することで、驚くほど日々のルーチンがスムーズになり、そこに「遊び心」という要素を加えることが可能になります。
ゲームのレベルデザインに見る「快適な流れ」の原則
ゲーム開発者がレベルを設計する際、最も重視することの一つは「プレイヤーが迷わず、ストレスなく進行できるか」です。そのためには、以下のような要素が綿密に考慮されます。
- 動線設計: プレイヤーが自然と次の目標地点へ向かえるような通路や地形の誘導。
- オブジェクト配置: アイテムやギミック、敵などを、プレイヤーの行動を促したり、新たな発見を提供したりする場所に配置する。
- 視覚的誘導: 目を引くランドマーク、光るオブジェクト、矢印などで、プレイヤーの注意を特定の方向へ向ける。
- 障害物と回避策: 行く手を阻む壁や敵などを配置しつつ、それを乗り越えるためのヒントや手段を用意する。
- 報酬の配置: 適切なタイミングでプレイヤーに達成感や進捗を感じさせるアイテムやイベントを用意する。
これらの原則は、ゲームの世界だけでなく、私たちが日々を過ごす物理的な空間や、タスクの進め方にも応用できます。
日常の「レベルデザイン」:家事・育児の動線を快適にする応用
家事や育児における「レベルデザイン」とは、自分や家族が最も効率よく、そして気持ちよく動けるように、物理的な空間(部屋の配置、収納)や、時間的な流れ(タスクの順番、段取り)を設計し直すことです。ここにゲーム的な「遊び心」を加えることで、単なる効率化に留まらない楽しさや発見が生まれます。
1. 動線の見直しと最適化
ゲームで最短ルートや効率的なルートを探すように、家事や育児の「動線」を意識してみます。
- 料理: 食材の準備から調理、盛り付け、片付けまで、キッチンでの一連の動きを想像してみましょう。よく使う調理器具や調味料は、作業する場所の近くに配置されていますか。シンク、コンロ、冷蔵庫、作業台などの位置関係で、無駄な移動が発生していないか確認します。まるで自分自身がキャラクターになったかのように、キッチンという「レベル」をスムーズに攻略できるか考えてみるのです。
- 洗濯: 洗濯物を集める場所、洗う場所、干す場所、たたむ場所、しまう場所の間の移動を意識します。各工程で使う洗剤、ハンガー、ピンチ、洗濯かごなどがすぐに手に取れる場所にありますか。この一連の流れを一つの「クエストライン」と見立て、いかに効率よくクリアできるか、時間や動きを計測して「タイムアタック」のように挑戦してみるのも遊び心の一つです。
- 育児: おむつ交換、授乳、着替えなどのルーチンにおいて、必要なものがすべて手の届く場所に集まっていますか。例えば、おむつ交換セット(おむつ、おしりふき、ビニール袋、替えの服)を一つの「アイテムセット」としてまとめておき、交換場所の近くに置いておくことは、ゲームでよく使う回復アイテムをショートカットに登録しておくようなものです。
2. オブジェクト(モノ)の効果的な配置
ゲームのレベルでは、アイテムや仕掛けがプレイヤーの行動を誘導したり、助けになったりします。日常生活でも、モノの配置を工夫することで、作業をスムーズにし、心地よさを生み出せます。
- よく使うモノの近くに: 掃除用具は各部屋の目立たないが取りやすい場所に分散配置する、子供のおもちゃは遊ぶ場所の近くに収納場所を作るなど。「必要になったら遠くまで取りに行く」という無駄な移動を減らすことは、ゲームで無駄なエンカウントを避けるようなものです。
- 「次にやること」を配置: 次に着る服を寝室の椅子にかけておく、次に読む本をテーブルに置いておくなど、物理的な配置が次に取るべき行動を「視覚的に誘導」してくれます。これはゲームで次の目的地を示すアイコンや矢印に相当します。
- 心地よい空間を作るモノ: ゲームで「セーブポイント」が安心感を与えるように、お気に入りのクッションや飲み物などを、家事や育児の合間の休憩場所に置いておくことは、日常の中に小さな安らぎの「オブジェクト」を配置することと言えます。
3. 障害物への対処と「発見」
ゲームでは障害物があるからこそ、乗り越えた時の達成感があります。日常生活の「障害物」(片付いていない場所、時間的な制約、子供の予期せぬ行動)も、ゲームのレベルデザインの一部と捉えることができます。
- 障害物の排除/回避: 床に落ちているものを片付ける、危険なものを撤去するなど、物理的な障害は積極的に排除します。これはゲームで邪魔なオブジェクトを破壊したり、危険な敵を回避したりするのと同様です。
- 「発見」の要素を加える: 障害物がある場所や、普段あまり使わない場所を、「何か面白いものはないか?」というゲーム的な探求心を持って見てみます。例えば、棚の奥から懐かしいものが出てきたり、普段意識しない場所の汚れに気づき、それを落とす「ミニクエスト」が発生したりするかもしれません。
4. 小さな「報酬」と「フィードバック」の設定
ゲームでは敵を倒したりクエストを完了したりすると経験値やアイテムが得られます。日常でも、小さなタスクの完了に「報酬」や「フィードバック」を設定することで、モチベーションを維持しやすくなります。
- 完了の視覚化: 掃除が終わった場所をスマートフォンで撮影して見返す、To Doリストの項目にチェックを入れるなど、作業の完了を視覚的に確認できる仕組みを作ります。これはゲームのアチーブメント獲得に似ています。
- 自分へのご褒美: 特定の家事が終わったら好きな飲み物を飲む、子供との遊びの時間を作業完了の「ご褒美」にするなど、小さな自分なりの報酬を設定します。
- 家族との協力: 家族が家事や育児に協力してくれたら、感謝の言葉を伝えるだけでなく、「〇〇(家族の名前)が手伝ってくれたおかげで、このステージをクリアできたよ!」のように、ゲーム的な表現で感謝を伝えてみるのも楽しいでしょう。
日常を「デザイン」する遊び心
家事や育児の動線や環境を「レベルデザイン」の視点で見直すことは、単に効率を上げるだけでなく、日々のルーチンワークに新たな視点と楽しさをもたらします。どこに何を置けばもっとスムーズか、どんな流れで作業すれば無駄がないか、といったことを考えるプロセスそのものが、クリエイティブな「デザイン」行為であり、そこにゲーム的な工夫を加えることで「遊び心」が生まれます。
マンネリを感じやすい日常の中に、自分なりの「ステージ」や「コース」をデザインし、それをいかに快適に、面白く攻略するかを考えてみる。これは、忙しい日々の中でも、自分自身が生活のデザイナーとなり、主体的に楽しむための有効な方法の一つと言えるでしょう。完璧を目指す必要はありません。今日のキッチンは「チュートリアルステージ」、明日の洗濯は「タイムアタック」、来週の部屋の片付けは「探索ミッション」のように、気軽に視点を変えてみることが、新しい発見と遊び心につながるはずです。